【全文掲載】ゼクシィ長屋

とある結婚式の余興のために書いた、
落語の原稿を掲載します。

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(ゼクシーCMのドリカムバージョンのイメージ。幸せ一杯な笑顔で)

ぱぱぱぱーん♪ぱぱぱぱーん♪ぱぱぱぱん♪
ぱぱぱぱん♪ぱぱぱぱん♪ぱぱぱぱん♪
あいらぁびゅーふぉえばー♪あなーたのー(ここでぶつっと歌を切って真顔に戻る)
▼参考動画
http://www.youtube.com/watch?v=-sTn4oWW4SI&playnext=1&list=PLCFDD066670B5EAA4

こほん(せきばらい)
ってなわけで、結婚というのは誠に愛でたいものでございます。
今回は、この結婚に因んで、なにか面白い話をしてくれないかと、
りょうすけくん、ゆうこさんに頼まれまして。
私、ここに上がらせていただいてるわけですが、
その相談を受けたときに印象的だったのが、
「二人でゼクシィを買いに行ったとき、結婚するんだというムードが一気に盛り上がったなあ」
というお話しでした。
二人で結婚情報誌を買って、二人で読むということは、
本当の意味で最初の共同作業ということになるなのでしょうな。

そこで思い出したのが、江戸の昔から伝わる名作「ゼクシィ長屋」の一席。
古典落語で言うところの「長屋噺」でございますな。
もちろん、古典落語ですから、実在の団体、企業、雑誌、夫婦とは一切関係はございません。
江戸時代のとある男女のお話としてお楽しみいただければと思います。

(以下、淡々と)
ええ。さて。このゼクシィ(手ぬぐいを重たい本に見立てて開く)。
創刊は安政五年の5月。これはリクルートが発行している結婚情報誌ですな。
江戸や堺、京、博多といった大都市圏を中心に全国展開され、
現在では全国で全20バージョンが出版されております。

と、まあ、このへんのお話はウィキペディアからのコピペでだいたい事足りますので、
ほどほどにしておきましょうかね。
結婚と言えばゼクシィ。ゼクシィといえば結婚。
今も昔もブライダル産業は、これなくしては語れない。そんなシロモノでございます。
そんなわけで、広告...もとい、役立つ情報が満載のてんこ盛りの大盤振る舞いになっておりまして、ご存じの通りとてつもなく重いんですな。
いやしかし、この本の重みは、何も重量だけではございません。

ご隠居「お。どうしたいおゆうちゃん。浮かない顔して」

おゆう「あ、ご隠居。いえね...」

ご隠居「うんうん。皆まで言うな。どうせ竹坊のこったろう」

おゆう「そうなんだよ」

ご隠居「こまったものだねえ。あれだけ おゆうちゃんのとこに入り浸っておいて、まあだ所帯を持つ気をおこさないわけかい」

おゆう「あの人も、所帯を持つって決めれば、そうそうハードリカーに胃袋をこがしたりはしなくなると思うんだけどねえ」

ご隠居「男ってのは、存外、そういうところで往生際が悪いっていうかな。肝が据わらなくいかんな」

おゆう「何かいい知恵はないかね?」

ご隠居「そうさなあ。そういえば、Yahoo!知恵袋でこんな話を聞いたことがあるぞ」

おゆう「なんだい?教えておくれよ」

ご隠居「竹坊が帰って来る前にな...ある物を買っておいで」

おゆう「うんうん」

ご隠居「それでな、必ず、必ず竹坊の目に入るところにそれを置いておくんだ」

おゆう「うんうん」

ご隠居「それを目にした男はな、女の覚悟を悟って、その気があるなら腹をくくるって話だ」

おゆう「そのあるものってのはなんだい?」

ご隠居「あわてなさんな。紀伊国屋にいってな、ゼクシィってしろもんを買ってこい」

おゆう「ゼクシィ?なんだい?それは」

ご隠居「よくは知らんが、本らしい。べらぼうにおもてえから、買うときは注意するんだぞ」

おゆう「ゼクシィだね。わかったよ。ご隠居、恩に着るよ」

ご隠居「気にするな。仲人はワシにまかせろ」

おゆう「仲人ってのは夫婦に頼むもんですよ。逃げた女将さんが帰ってくればお願いしますよ」

ご隠居「こいつは一本獲られたね。いいかい?必ず竹坊の目に入るところに置くんだぞ。これだけは忘れるなよ」

おゆう「わかったよ」

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早速、おゆうは紀伊国屋へ向かい、ゼクシィなるものを買い求めます。
たいそう分厚くて重たいので、
さぞや高い買い物になるのではと覚悟を決めておりましたが、
これがたったの五百円。
さらに専用のキャリーバックまで付いてくるって言うもんだから、驚きました。

おゆうは「なんだかまだされてるみたいだねえ」とご機嫌で長屋に戻ります。
長屋に着いたおゆうは、とりあえず、ゼクシィを手に取って開いてみました。

(手ぬぐいで重量感を表現)

おゆう「こりゃまた読もうと思うと、ますます重たいねえ。なんだかキレイな服着た娘さんがいっぱい載ってるね...なんだかいっぱい字も書いてあるし」

(ページをめくる)

おゆう「随分薄い紙使ってるねえ。貼り付いちゃって、めくっても次のページがみえないし、何が書いてあるかもよくわからなねえ」

ふわあ(大あくび)

おゆう「なんだか眠くなってきちまったね。ここんとこ毎晩、寝入りばなに酔っぱらった竹さんに起こされてるから、ちょっと寝不足なんだよ。はやいとこ竹さんの目に入るところにおいて、ちょっと昼寝でもしようかね。
ええと、目に入るところ、目に入るところ...真っ先に目に入るところは...と。そうだ。あそこにしよう」

おゆう「よっこいしょっと(重たそうに運んで置く動き)。これでよし(ぱんぱんと手を払い、再び大あくび)
さて。そうせ竹さんは夜更けまで帰ってきやしないんだ。ちょいと昼寝するよ」

と、おゆうはすやすやと眠ってしまいます。

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さて、夜もとっぷり暮れまして、吉祥寺でしこたまラム酒を飲んだ竹坊が、おゆうの長屋に帰って参ります。

どんどん(戸を叩く音)

竹坊「おおい。おゆう、来たぞ!おれだ」

どんどんどん(戸を叩く音)

竹坊「おおい。いねえのか?」

どんどんどんどん...がたっ(戸が外れる)

竹坊「おおっと。開いてたのか。っと。暗いねえ...おゆうのやつ、どこ行ってるんだ?もう寝てんのか? あかり、あかり...」

カチッカチッ...ぼっ(火打ち石)

竹坊「なんでえ。おゆうのやつ、すやすや寝てやがるのか。通りで暗いわけだ...っと??んんっ?わっ?!」

(一歩踏み出す動き・けつまずいて前に倒れる動き)

ごんっ(頭を強打して伸びる)

おゆう「きゃあっ。竹さん!たけさあん!」

竹坊「う〜ん...なんで土間にこんな...」(がくっと事切れる)

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翌朝、授けた知恵の結果が気になるご隠居が、おゆうの長屋の前までやってきますてえと、程良く戸が開き、おゆうが出て参りました。

ご隠居「お?竹坊のやつはどうした?」

おゆう「なんだか頭がスッキリした!って、出かけていったよ」

ご隠居「なんのことだい?それはとにかく、ゼクシィの首尾はどうだい?」

おゆう「それが...よくわからないけど、効かなかったよ」

ご隠居「ん?効く?...まあいいか...そりゃまたどうして」

おゆう「"必ず目に入るように"ってご隠居が言うから、戻って来て真っ先に目に入ると思って上がりかまちに置いておいたら、目に入る前に、ゼクシィにけつまずいて伸びちまったんだよ」

ご隠居「そいつはいけないね。もっとこう、確実に、がつんと頭にたたき込んでやらなきゃいけないよ。おゆうちゃんの覚悟ってもんをな」

おゆう「確実に、がつんとだね。わかったよ」

ご隠居「ああ。がんばりな」
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その晩も、やはりラム酒のニオイをぷんぷんさせた竹坊が長屋にやってきます。
と、長屋の様子がどうもおかしい。

竹坊「なんだい?不用心だねどうも」

灯りは付いておりますが、戸が微妙に開いている。
印刷業界の専門用語で言うとAB版雑誌サイズの縦幅程ほど開いている。
ギリギリ頭が入る隙間なので、竹坊はそろりと長屋をのぞき込む。

おゆう「あ、竹さん。また飲んできたのかい」

竹坊「おう。おゆう、いるんじゃねえか。戸を開けっ放しにしといたらどら猫が入ってくるぞ」

おゆう「あんただってどら猫みたいなもんじゃないか」

竹坊「なんだとっ」

がらがらっ(と戸を開ける)
ガツンっ(頭に重いものを喰らってぐらっとする)

おゆう「きゃああ」

竹坊「ん?がはっ...おゆう、おれがどんな想いで毎晩飲み歩いているかわかって...がくっ」(事切れて倒れる)

おゆう「竹さん、たけさーん」


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翌朝、またもご隠居が、おゆうの長屋の前までやってきますてえと、
程良く戸が開き、おゆうが出て参ります。

ご隠居「おゆうちゃん、ガツンとやってやったかい?」

おゆう「やってやったよ」

ご隠居「そうかい。で、どうだった?」

おゆう「ぜんぜんだめだよ。戸口に挟んで、開けた拍子にがつんと落としてやったら、また伸びちまったんだよ」

ご隠居「そいつはいけないね。いいかい?もっとな、胸の奥にぐぅーっと響くように伝えてやらなきゃいかん」

おゆう「...胸の奥に...ぐぅーっとだね?わかったよ」

ご隠居「ああ。がんばりな」

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その晩、おゆうは泥酔した竹坊をふつうに出迎え、寝静まるのを待ちました。

竹坊「(イビキ)...編集長...もう飲めません」

おゆう「人の気も知らないで、のんきに寝言なんて言いやがって...私の気持ちを胸の奥まで届けてやるよ」

と、ゼクシィを竹坊の胸の上に置きました。

が、待てど暮らせど、なにもおきやしません。
強いて言うなら、竹坊が苦しげにうなされているだけ。

おゆう「お。これはもしや...ゼクシィが効いてるに違いないね。朝になったら、おゆう、所帯持とう!って言ってくれるよ」

おゆうも、もはやちょっとアレな状況です。気疲れのせいか、竹坊の寝姿を眺めながら、こっくり、こっくりと眠りに落ちてしまいました。

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翌朝の長屋は大騒ぎでございました。

おゆう「ご隠居!ご隠居!たいへんだよぉっ」

ご隠居「どうしたっていうんだい?」

おゆう「竹さんが、竹さんがっ」

ご隠居「ほう。とうとう、うんと言ったか?」

おゆう「ちがうんだよ!うんうんうなって真っ青な顔で泡吹いてるんだ」

ご隠居「おい、そりゃあ本当かい!?」

おゆう「どうしようかね!?わたしゃご隠居の言ったとおりに...」

ご隠居「とにかく医者を呼ぶんだ」

と、長屋騒然の事態になりまして。医者がとんで参ります。

竹坊「うーん...うーん...」

医者「診断は胸部圧迫による酸欠ですな。漬け物石でも胸に乗せて寝てましたかね?」

おゆう「わたしゃご隠居の言いつけ通りにゼク...」

医者「ゼク?」

ご隠居「あー!あー!(遮るように)なんでもないですよー。あとはワシが面倒見ますんで、どうぞお引き取りください」

医者「まあ、命に別状はないんで、いいですけどね。バカなマネはおやめくださいよ」

ご隠居「はい。おつかれさん。」

(ぴしゃり)

おゆう「わたしが買ったゼクシィには毒でもあったのかねえ...」

ご隠居「まあ、あれだ。熱い時分だしなあ。(ごまかすように)...そうだ!夏のサバみたいなもんで、きちんと酢で締めたりしないと当たっちまうのも希に出るらしいな。ワシもうっかりしとったよ。とにかく、今日の所は、所帯云々のことは置いておいて、しっかり看病しておやりよ」

おゆう「...そうだね。わかったよ」

と、面倒を見るといったハズのご隠居もそそくさと帰っていきまして、
長屋にはおゆうと竹坊が二人きり。
ちりーんと風鈴が鳴りまして、思えばこれは、竹坊と好き会う仲になって初めて買ってもらった思い出の品。昼間の長屋でゆっくりと一緒に過ごすのもずいぶん久しぶりのことでございます。

いくらヒモ同然の飲んだくれとは言え、惚れた女は弱いもの。
うなされる竹坊をやさしくあおいでやりながら、額の汗などぬぐってやりますてえと、竹坊がゆっくりと目を開けました。

おゆう「竹さん!気がついたのかい?」

竹坊「ん...ああ。おゆうか。なんか怖い夢を見ていたんだが、ここも夢かい?」

おゆう「何言ってるんだよう」

竹坊「いやなあ。夢の中でおめえに怒られてなあ。いい加減、所帯を持たないのかいっ。その気がないなら、もうここから閉め出すよっ!ってすごい血相でなあ」

おゆう「ばっ、ばかなこと言うんじゃないよ」

竹坊「そうだよなあ。こんな飲んだくれと所帯なんてなあ」

おゆう「わたしは別に...そんなこと...」

竹坊「いや。決めたんだ。おゆうがどうでも、俺の気持ちを伝えることにするぞ」

と、竹坊はすっくと立ち上がり、部屋の奥からなにやら四角い、重そうな袋を持って参りました。

おゆう「そっ、それは...」

そうです。おゆうが紀伊国屋でもらったキャリーバックと同じもの。

竹坊「ここんとこよっぴで飲み歩いていたのはな、版元のお偉いさんたちと色々話し合っていたからなんだ。でな、やっと決まったんだ。月刊誌の表紙のデザインの仕事が」

と、おもむろにキャリーバックから取り出したるは、見まごう事無き、真新しいゼクシィ。

おゆう「こ、これはっ」

竹坊「ずっと決めてたんだ。この仕事が決まったら、おめえと所帯を持ちてえってな」

おゆう「うれしいよっ。竹さん!」

竹坊「じゃあ、俺といっしょになってくれるのかい!?」

おゆう「あたりまえじゃないか」

ゼクシィを握りあいながら、見つめ合う二人

おゆう「ところで竹さん」

竹坊「なんだい?おゆう」

おゆう「このゼクシィ、もう酢で締めてあるのかい?」


どうも「ゼクシィ長屋」の一席でございました。
竹坊とおゆう以上にラブラブなりょうすけくん、ゆうこさん。
ご結婚本当におめでとうございます。



万年ビギナーズラック。

そんな気持ちで構えていたい。

老練さや安定感は足の裏に貼り付けて、
転ばないように気を配ればいい。
足の裏より上は、謙虚で素直なからだのまま、
この世の色々をふわりと受け止められるようにしておきたい。

とかね。
いまいち見かけ倒しのベテラン感が出てきている様なので、
気持ちを新たにしようと思いました。


【ろっかく怪談.02】魚泥棒

後輩の"見ちゃう"女の子から聞いた話です。
まあ、この子の体験自体は追々語っていくとして、
この子の霊感のルーツらしいおばあちゃんの話が、
かなりぐっと来まして、ここで紹介させてもらいます。

時代で言えば、まあ、昭和初期くらいですかね。
ある時、おばあちゃん、といっても、
当時は子どもなんですが、
お使いで、大きな魚を買ったんだそうです。
今みたいにパックされている時代じゃないんで、
丸ごとぶら下げて帰る。
右手には先に買ってあった他の荷物。
左手に大きな魚。

田舎の一本道を1人でとぼとぼ歩く。
左側には小川を利用した用水路が流れてる。
右側にはずっと広がっている田んぼ。


街灯なんてないから日が暮れかけると、
すぐに暗くなってきて、ふっとおかしなことに気がついた。

まっすぐ歩いているつもりなのに、
いつの間にか左の用水路すれすれのところを歩いていて、
今にも用水路に落ちそうになっていたんです。

びっくりして道の真ん中に戻る。
でも、いつの間にかまた、川のすれすれのところ。
そんなことを何度か繰り返しているうちに、
だんだん怖くなってきて、早足になる。
ようやく自分の家のそばまでやってきたところで、

「どぼん」

ついに片足が用水路に落ちてしまった。

そこで取り乱して、走って家にたどり着くと、
家で待っていたお母さんが不思議そうな顔をして、

「あんた、それ、なに?」という。

その視線を追って、自分の左手を見たとき、
うわっと思ったそうです。

魚が頭を残してきれいに骨だけになっていたんですよ。


【ろっかく怪談.01】青いゴム草履

小学校3年生か4年生くらいだったと思います。
当時、親父がアウトドアに凝ってまして、
夏休みといえばキャンプという感じが何年か続いていました。

森田家は東京なんですが、
母の実家が栃木にありまして、
母の帰省のついでに
日光のキャンプ場へ行くというのが、割と定番でした。

思えば、帰省に合わせているわけなんで、
ちょうどお盆なんですよね。
そう考えると、なんとなく「あるかもなあ」
みたいな感じはあります。

その年のキャンプは
中禅寺湖のほとりでやることになっていたんです。

ところが到着するなり、僕はご機嫌斜めでした。
一週間前の台風で湖が増水してて、水に入れないんですよ。
妹はカナヅチだし、弟はまだ小さかったから、
まあ、泳ぐのが好きな僕一人だけががっかりしましてね。

そこで親父が一計を案じて「テツオよ、散歩に行こう」と。
僕の首に自分が愛用しているキャノンのEOSを
ぶら下げてくれてたんですよ。

僕自身、父に連れられ小学校低学年から
南アルプスを歩き回っていたくらいで、歩くのは嫌いじゃない。
しかもカメラ好きの父の影響で、写真もよく撮っていたんですね。
だから、まあ、二人で写真を撮るのもいいかと思って、
くっついていった。

このEOSってのは、
現在でも一眼レフの入門編みたいな感じで、すごく使いやすい。
まだ当時は珍しかったオートフォーカスの作動音や、
レンズの動きも含めてすごくわくわく出来るカメラだったんです。

親父もまあ、少ない小遣いをやりくりしつつ、
ちょいちょいカメラを買ってたけど、
その頃のお気に入りだったみたいで。
僕は滅多に触らせてもらえないシロモノ。
そこにきて、EOSの使用許可が下りたことで、
偉くテンションが上がったわけです。

「このフィルム一本分は自由に使ってヨシ」と、
24枚撮りのフィルムを与えられて、
野草、鳥、湖、その向こう側の山並みなんかを
パシャパシャやりながら、ほとりの林の中を進みました。

左手に湖。右手に林。
で、木で出来たハイキングコース、
いわゆる「木道」ってやつが湖沿いに伸びてる。
そこを15分くらいかな。二人で歩くわけです。

道は林の奥に入ったり、水際までいったりと曲がりくねっていて、
たまに湖の波打ち際のチャプチャプという音が聞こえたりもした。

ちょうど、林が開けて、
湖面が見える様な場所にさしかかったとき、
「パシャッ・ウィイィィィィィー」
24枚撮りのフィルムが終わり、
自動巻き戻しがはじまりました。
と、同時に、親父と僕はあることに気づき、足を止めました。

「テツオ・・・線香のにおいがしないか?」
「し、しないよ」
いや、していました。
しかもちょっとたなびく煙も見えてました。

急に寒くなったのは、雰囲気のせいだと思いますが、
親父は僕の反応を見て、にやにやしながら木道を下り、
煙の発信源である湖畔に向かって歩き出します。
一人にされるのだけは勘弁なので、仕方なく後を追うと、
線香の煙とにおいはいよいよ否定しようもなく、
濃厚なモノへと変わっていきました。

と、親父が波打ち際で何かを見つけて立ち止まります。
「テツオ・・・これ・・・」
親父の視線を嫌々ながら追うと、そこには、
小さなほこらの様なモノがあって、
中に、紙とも布とも判別がつかない、
ぼろぼろのカタマリがおいてありました。

正直、見るのも嫌だったんですが、
そのカタマリ、どうやら頭と胴体と手足があって、
ほこらの中で両足を投げ出して座っている感じなんですね。

夥しい量のお線香と花、お菓子や小銭。
ついさっき、誰かが供えたようなものから、
すでに朽ち果てたモノまで、降り積もるように置いてありました。

その様の不気味というか、迫力というか、
立ち去りたいのに立ち去れないんですよね。

「・・・人形・・・だったのかな・・・」
親父の言葉でようやくわかったのですが、
それは、人形の心材なんですよ。
服も肌も朽ちて、最後に残った、"人形の骨"のようなモノです。

「よくはわからんけど、子どもが死んだのかな。この湖で」
親父は呆然としながらつぶやいて、手を合わせました。

今思えば、こうして子どもを祀る人がいるとすれば、
それは親父と同年代で子どもを失った人で、
親父なりに思うところあっての行為だったと思いますが、
僕にしてみりゃ嫌がらせ以外のなにもでもない。

「は、はやく帰ろうよ」
「そんなに急ぐなよ」
親父の腕を引っ張って、きびすを返そうとしたとき、
何かを踏んづけたことがわかりました。

見ると、それは青いゴム草履でした。
突然の違和感で飛び上がって足下を見ると、
ゴム草履は波打ち際すれすれでぬれている右足と、
僕が踏んづけた左足があって、ちょうど、
歩いたような位置にあった。

なんだか不気味で、有無を言わせず親父を引っ張って、
母親や兄弟たちが待つテントへと戻ったんですね。

で、食事の準備をしていた母が言うんですよ。
「テツオ、泳ぐのはあきらめなさいよ。絶対ダメだからね」と。
僕にしてみれば、もはや泳ぐことなんてどうでもよくなっていたんですが、
その口調が嫌に強いことに親父が何か気づいた感じで。
「どうした?なんかあったのか?」
「それがね、あなたたちが散歩に出たあと、
 キャンプ場の管理の人がこんなものを配っててね」

それははがきより一回り大きいくらいのビラで、
一週間前の日付と、「行方不明」の文字、
それと小学生の男の子の名前と服装が書かれていました。

「赤い浮き輪と青いゴム草履、紺の海水パンツと白いTシャツ」

「台風の次の日にね、いなくなったんだって。まだ見つかってないそうよ」
母は神妙な顔をしましたが、僕と親父はもっと神妙な顔をしていました。
というか、ほぼ絶句です。

男の子の服装の欄の「青いゴム草履」。
イラストまで描いてあって、
まさに、さっき僕が踏んづけたそれなんですよ。

僕はちょっとパニックになってビービー泣き出し、
親父はサンダルを見つけて警察に渡さねばということで、
ほこらの場所に戻ろうとしましたが、
本当か嘘か、どうやってもあの「開けた場所」に
たどり着けなかったそうです。


数週間後、ショックを忘れかけた頃合いで、
他の写真と一緒に、例の24枚撮りフィルムの写真の現像が上がってきた。
これがね、本当に嫌だったんですよ。

フィルムで写真撮ってりゃたまにはあるんですけどね。
もうね、24枚全部がシロっぽい。
しかも、奥に進むにつれて煙のようなモノが濃くなっていくですよ。

で、さらにぞーっとしたんですけどね。
最後に撮った一枚は湖面の写真で、その彼方に、
赤い浮き輪らしきモノが写り込んでいたんですよね。


ゆめとこめ(※注:わりとフィクション)

彼女がケータイを置いたまま、
旅先で姿を消す・・・みたいな夢を見た。

漠然と「いなくなった」のではなく、
「見捨てられた」ような印象が強かった。
情けないほど、うろたえて、わーっとなった。

目を覚ますと朝の9時過ぎ。
夢だと言うことはなんだか判断ついているんだけど、
「夢か!」みたいな安堵感も持てないまま、電話をかけてしまった。
2コールで出た彼女は、夜勤明けでもぐもぐお食事中だった。

「もひもひ?(もきゅもきゅ)」
「・・・あ、いるよな。うん」
「どうひたの?(もきゅもきゅもきゅ)」
「あ、いや・・・なに食ってるの?」
「こめ」

おやすみなさい。
二度寝した。